1. 発行可能株式総数とは? ― 持分比率と経営の安定性を考慮した株式数の決定
発行可能株式総数とは、株主総会の決議を経ずに、取締役会の決議のみで発行できる株式の総数を指します。これは会社の定款に記載しなければならない絶対記載事項であり、登記事項でもあります。つまり、会社を設立する際に必ず定める必要がある重要な項目です。
発行可能株式総数は、会社の資本政策に深く関わる要素であり、企業の成長戦略や資金調達手段に直接的な影響を与えます。経営の安定性を維持しながら、柔軟な資金調達を可能にするためにも、適切な株式数の設定が求められます。
2. 株式の基本的な概念と価格設定
株式とは、企業が資金を調達するために発行する「証券」です。株を購入・所有することで、出資者は株主となり、会社のオーナーの一人としての権利を持つことになります。一般的に、株主は議決権を持ち、配当を受ける権利も有しています。
1株の価格については、法的な最低額のルールは存在しないため、自由に設定できます。ただし、旧商法では1株の額面を5万円以上とする規定があったため、現在でも1株5万円で設定する企業が多い傾向にあります。
株の価格設定のメリット・デメリット
◆株価を高く設定する場合
- 1株あたりの資金調達額が増える
- 株主の数が限定され、経営のコントロールがしやすい
- ただし、出資のハードルが上がり、資金調達が難しくなる可能性がある
◆株価を低く設定する場合
- 出資のハードルが低くなり、資金調達しやすい
- しかし、多くの株主が関与することで経営の意思決定が複雑になる可能性がある
3. 発行可能株式総数の計算方法
◆設立時の株式数の計算
設立時の株式数 = 資本金 ÷ 1株あたりの株式の価格
◆発行可能株式総数の計算
発行可能株式総数 = 設立時の株式数 × 4
例えば、資本金が100万円で1株5万円と設定した場合、設立時の株式数=100万円÷5万円=20株。
この場合、発行可能株式総数は 20株×4=80株 と設定されます。
この計算式はあくまで一般的な目安であり、実際の発行可能株式総数は事業計画や今後の成長戦略を踏まえて設定する必要があります。
4. 発行可能株式数を多くするメリット
会社の成長に伴い、追加の資金調達が必要になるケースがあります。このとき、発行可能株式数が多ければ、新株発行を通じた資金調達がしやすくなります。
◆発行可能株式数を多めに設定する主な利点
- 新規株主への株式割当の柔軟性:投資家、従業員、取引先などに対し、株式を配分しやすくなる
- 経営のコントロールを維持:少数株主の影響を抑えられる
- 株式分割の選択肢を増やす:流動性の向上や株価の調整が可能
- 持分比率の調整が容易:新パートナーを迎える際のスムーズな調整が可能
5. 発行可能株式数を決める際の注意点
- 過剰な株式発行は経営権を脅かすリスクがある
- 株式の発行によって、創業者や経営陣の持分が希薄化する可能性がある
- 発行可能株式総数を変更する際には株主総会の特別決議が必要
- 変更後は法務局での登記手続きが必要
6. まとめ
発行株式数の設定は、単なる資金調達の手段にとどまらず、経営の安定性や企業の成長戦略にも大きく関わる重要な決定事項です。発行可能株式数を適切に設定することで、資金調達の選択肢を増やしながらも、経営権の維持を図ることができます。
会社設立の段階で十分な計画を立て、経営戦略に沿った株式数の設定を行うことが、長期的な成功につながります。